中国では漢語として「輿論」という用語が古くより存在した。一例を挙げれば、
唐の
李商隠は、その「汝南公の為に赦を賀するの表」の中で、「直言の科(とが)を取れば、則ち輿論を聴く者、算(かぞ)うるに足らず、宥過の則を設くれば、則ち郷議を除く者、未だ儔(ともがら)とすべからず」と述べている。ここでは、「輿論」は、郷議という言葉と対句として使用されている事がわかる。また、その語義を
明代の『
類書纂要』は、「輿論とは、輿は衆なり、衆人の議論を謂うなり」と説明している。さらに、輿論と同様の意味で、『
晋書』の「
王沈伝」では、「輿人之論」という用語が使用されている。「輿人」とは、衆人、つまり多くの人々のことを言うので、「輿論」と同義語であることが分かる。
1946年に
当用漢字表が
公布される以前は、「輿論」と「
世論」とには区別があった。前者はPublic Opinionの、後者はpopular sentimentsの訳語として用いられた。日本語でいうと「輿論」は「多数意見」で、「世論」は「全体の気分」となる。
佐藤卓己はこの違いを指摘した上で、現在は「輿論」は「理性的討議による市民の合意」で、「
世論」は「情緒的な参加による大衆の共感」であると定義している。